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福岡高等裁判所 昭和43年(ネ)665号 判決 1970年9月07日

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等は「原判決中控訴人等敗訴の部分を取消す。被控訴人等の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、左記を付加するほか原判決事実摘示の通りであるからこれをここに引用する(但し原判決二枚目表二行目、五行目の各「年五分」とあるのを「年六分」と訂正し、同裏五行目「乙第一ないし一一号証を提出し、」とあるのを削除する)。

一  被控訴人等は、

(一)  被控訴人波多江は、昭和三九年一〇月控訴人波田から原判決別紙第一、第二目録記載の各土地(以下本件土地という)上の建物の賃貸あつせんの依頼を受けた数日後、同人から坪当り金一万三、〇〇〇円ないし金一万六、〇〇〇円の価格でなら右各土地を売却する旨の承諾を得、その売却方のあつせんを依頼されたので控訴人福岡大学の学長今村有と昵懇の被控訴人小林にその旨を伝え、同被控訴人に控訴人福岡大学に対する買取方あつせんを依頼した。

(二)  その頃被控訴人等が一緒に本件土地を見分した際、控訴人波田も来合わせていたことがあり、被控訴人波多江は被控訴人小林を同控訴人に紹介し、被控訴人小林と共に控訴人波田の案内で本件各土地の境界を見分した事実があつた。

(三)  他方控訴人福岡大学も被控訴人小林のあつせんに対し本件土地買受の意思がある旨回答し、前記学長今村有(昭和四〇年四月以降同人は同大学専務理事を兼務)、事務局長田中円三郎(昭和四〇年四月から同人は同大学常務理事を兼務)、法人財務課長中川一男等からそのあつせんを依頼して来たので、被控訴人波多江はその旨これを控訴人波田に伝えた。

(四)  被控訴人等が為したあつせんの状況及びその結果は次の通りであつた。即ち、被控訴人等に共同して控訴人等の間にたち価格の交渉をすすめたが、その間、被控訴人波多江は主として控訴人波田と交渉し、自身で数えきれないほど度々同控訴人と面談したほか、その使用人訴外藤野金次郎をして二度ほど同控訴人を訪問させ、被控訴人小林は主として控訴人福岡大学と交渉し、前記今村学長に三、四回位、同田中事務局長に二回位、同中川課長に五、六回位、法人財務課員平田元祐にも数回面接し夫々売買代金額の調整に努力した。その結果、はじめ控訴人波田申出の売値坪一万五、〇〇〇円ないし一万六、〇〇〇円に対し、控訴人福岡大学申出の買値が坪一万二、〇〇〇円ないし一万三、〇〇〇円であつたものが、控訴人福岡大学の譲歩により買値坪一万五、〇〇〇円にまで歩み寄り妥結するかにみえたとき控訴人波田は坪一万六、〇〇〇円でも売らぬと言い出し、そのころから同控訴人に被控訴人等の仲介を望まぬ素振りがみえはじめた。

(五)  そこで被控訴人等はしばらく機の熟するのを待つため交渉を差控えていたところ、控訴人等は原判決別紙一の第五項に記載の如く被控訴人等を除外して直接交渉により売買契約をしてしまつたのである。

(六)  控訴人等がこのように直接交渉により売買契約を締結したのは要するに被控訴人等に対する報酬金支払を免れる目的があつたからにほかならない。

(七)  元来宅地建物取引仲介業者と依頼者との間に締結される仲介契約は受任者(仲介業者)の仲介の結果取引が成立することを停止条件として委任者から仲介業者に報酬を支払うことを約する特殊な委任契約であるが、本件の如く途中から委任者が報酬の支払を免れる為め仲介業者を除外して直接交渉の結果取引を成立させた場合は、なお仲介行為と取引成立との間に因果関係があり、委任者が故意に条件成就を妨げたものとして、仲介業者は民法第一三〇条により制規の報酬全額の支払を請求し得るものである(最高裁判所昭和三九年一月二三日民集一八巻一号九九頁参照)。

(八)  仮りに、控訴人福岡大学が被控訴人小林に対する仲介委任を解除した後、控訴人波田との直接交渉により売買契約を締結したとしても、右被控訴人が委任の趣旨に従い仲介に努力している途中で一方的に委任を解除するのは同被控訴人の有する期待権たる前示停止条件付報酬請求権を侵害するものであるから前記(七)に記載したと同様の理由により同被控訴人は制規の報酬全額の支払を請求し得るのである(前示判例のほか、最高裁判所昭和三九年七月一六日民集一八巻六号一、一六〇頁参照)。

(九)  仮りに右の主張が容れられないとしても仲介業者が売買仲介の委任をうけその仲介に努力している間に、仲介業者の責に帰すべき事由によらずして仲介委任を解約され、かつ後日当事者間の直接交渉でその売買契約成立に至つた場合は、仲介業者は民法第六四八条三項、第六四一条の趣旨と信義則にてらしてその行つた仲介努力に応ずる報酬を請求することができ、本件はこれに該当するものである(広島高等裁判所岡山支部昭和三三年一二月二〇日民集第一一巻一〇号七五三頁参照)。

(一〇)  控訴人福岡大学の主張(後記三)について

(1)  後記三の(一)の主張事実中控訴人福岡大学の寄附行為によれば、同大学の代表者は理事長のみであること、被控訴人小林は同大学の今村学長から本件土地を控訴人福岡大学が買受けるにつき仲介を依頼されたことがあることはこれを認める。しかしその余の主張事実はこれを否認する。即ち、被控訴人小林は同時に控訴人福岡大学の田中事務局長(当時の法人事務所長)からも同旨の依頼を受けており、右今村学長、田中事務所長はいずれも同控訴人の理事であつて、被控訴人小林は前記寄附行為による代表権制限を知らなかつたから同控訴人はこれをもつて被控訴人小林に対抗することができない(民法第五四条)。

仮りに右主張が容れられないとしても前記田中事務所長は理事長の業務執行に関する補助機関として本件土地買受の仲介を依頼することにつき理事長を代理する権限を授与されていた。

(2)  後記三の(二)の主張事実中日時及び報告の相手方の点を除き、被控訴人小林が「本件土地は坪一万五、〇〇〇円でも売らないと地主が言つている。」旨報告したことは認めるがその余は否認する。右報告は昭和四〇年五、六月頃、控訴人福岡大学に対して為したものである。

(3)  後記三の(三)の主張事実中被控訴人小林が、控訴人福岡大学の事務職員平田元祐に「本件土地売買の仲介をさせてくれ」と申入れたことは認めるがその余の事実は否認する。尚、被控訴人小林は本件土地売買契約が控訴人等の間で成立した頃、右平田元祐からその旨を告げられ仲介から手を引いてくれと言われたことがあつたが、諾否の答弁をしなかつた。

(4)  後記三の(四)、(五)の各主張事実はこれを否認する。

二  控訴人波田泰夫は、

(一)  控訴人波田は昭和四〇年一〇月頃本件土地上に存する建物の賃貸につき仲介を依頼したことにより被控訴人波多江を知つたのであるが、同人に対して本件土地の売却を依頼した事実はない。被控訴人波多江は、右地上建物を見分した際、本件土地の売却をあつせんすれば相当の利益を得ることができると考え、控訴人福岡大学から仲介の依頼をうけたとして控訴人波田に売却方の交渉をして来たのである。仮りに被控訴人波多江が控訴人福岡大学からの依頼は受けたとしても、控訴人波田が被控訴人波多江に仲介を依頼したことにはならないのは勿論である。被控訴人波多江は結局昭和四〇年夏頃には価額の折合がつかず控訴人波田との交渉を打切つている。従つて、爾後控訴人波田が本件土地を売却したとしても被控訴人等に仲介料を支払うべき理由はない(最高裁判所昭和四三年四月二日判決集第二二巻第四号七四頁)。

(二)  控訴人波田は、当時本件土地上の建物に造作を加え、これを賃貸するため、数名の不動産業者に仲介を依頼し、昭和三九年一二月一八日右建物を第三者に賃貸し、控訴人福岡大学が前記被控訴人波多江からの交渉中直接控訴人波田に売買の交渉をして来た事実があるが、控訴人波田はこれを断つた事実があり、以上の事実は当時控訴人波田が被控訴人等の交渉を受ける意思がなかつたことを立証するに足るものである。

(三)  控訴人波田は被控訴人波多江に対し売却方のあつせんを依頼したことも、報酬の約束をしたこともないので本件土地の売却をもつて被控訴人等主張の如き停止条件付報酬契約の条件の成就を妨げたものということはできない。

(四)  被控訴人等の主張は全て控訴人波田が被控訴人波多江に対して本件土地の売却方あつせんを依頼したことを前提として本件請求をしているから以上の理由によりその請求が失当であることは明らかである。

三  控訴人福岡大学は、

(一)  控訴人福岡大学としてはその代表権ある理事長において当時の今村学長と被控訴人小林間の交渉経過につき事後報告をうけたにすぎない。

しかして、右今村学長には控訴人福岡大学を代表する権限はもとより本件土地売買についてこれを不動産仲介業者にあつせんを依頼する代理権を有していた事実もなく(私立学校法第三五条、第三六条、寄附行為第一五、第一六条)、たゞ本件土地がかねて控訴人福岡大学の買収予定地であつたので地主との間に売買契約がまとまるならば正式に控訴人福岡大学の機関にはかつて買受けて貰うつもりで知人である被控訴人小林の申出に対し値段の交渉を依頼したのである。

(二)  しかして右今村学長と被控訴人小林との委任関係は、昭和三九年暮頃被控訴人小林から控訴人波田が坪一万五、〇〇〇円でも売らないと報告して来たとき、黙示による合意解約ないしは今村学長からの委任契約の解除の意思表示が為されて消滅したものである。

(三)  昭和四〇年九月中、控訴人等の間で直接売買交渉が行われていた際、被控訴人小林は控訴人福岡大学事務職員平田元祐に再び本件土地売買に関する仲介の依頼を求めて来たことがありこの事実をみても前述の委任契約の消滅を同被控訴人が承認していたことが明らかである。

(四)  本件土地は控訴人福岡大学が学校用地として早くから着目しながら地主の意向を打診したまま買収交渉を後廻しにしていたもので、被控訴人等がこれを発見して来た土地でもなく、被控訴人等の仲介行為と本件売買契約成立との間には因果関係はない。

(五)  仮りに控訴人波田が本件土地の売却のあつせんを依頼した事実があつたとしても、その後同控訴人は仲介人の介入を拒否し、被控訴人等の仲介による売買の交渉には応じないことにしたのであるから前記今村学長の依頼による被控訴人小林の受任事務は、控訴人福岡大学の責に帰すべき事由によらずしてその目的(売買契約の成立)を遂げることが不能となつたのである。ことに控訴人福岡大学は何人にも本件土地の買受のあつせんを依頼したことがないのであるから被控訴人等主張の如き報酬債務を負担せねばならぬ理由がない。

四  証拠(省略)

理由

一  原審及び当審における各被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人等はいずれも宅地建物取引業法による免許を受け、宅地建物取引業者名簿に登録を受けたいわゆる不動産取引業者で不動産売買等の仲介あつせんを業とする者であることが認められ、他にこの認定に反する証拠はない。

二、被控訴人等に対する控訴人等の本件土地売買あつせんの依頼並びに仲介について。

この点については当裁判所も左記を付加するほか原審証人藤野金次郎、当審証人栗原護康、原審及び当審被控訴本人両名の各供述に、原審及び当審証人平田元祐、同東田隆次郎、原審証人田中円三郎、原審及び当審控訴本人波田泰夫の各供述の各一部を併せると、原判決二枚目裏一二行目から同三枚目表一一行目冒頭の「した」までに説示されているところと同一の判断をするのでこれをここに引用する(但し原判決二枚目表末行の「一万五・〇〇〇円」を「一万五・六〇〇〇円」と改め、三枚目表三行目「被告大学の」から次行「代理して」までを「その頃控訴人福岡大学に対し右土地を買うように勧め、同控訴人は」と改め、同六行目「原告」の次に「波多江」と付加する。)。

前記平田元祐、同東田隆次郎、同田中円三郎、同控訴本人波田泰夫の各供述並びに当審証人波田典正の供述のうち以上の認定に反する部分は措信できず、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

(イ)  乙第一ないし第一一号証、同第一二号証の一、二当審証人栗原護康、原審及び当審証人東田隆次郎、原審及び当審控訴本人波田泰夫、当審証人波田典正の各供述によれば、昭和三九年三月頃から同九月頃までの間、控訴人波田は、本件土地上に所有する木造平家建居宅(約三五坪)を修築し、新たに自動車の利用できる道路を設ける等してこれを希望者に賃貸しようと企て、賃貸の仲介を被控訴人波田を含む不動産取引業者に依頼し、結局同年一二月これを訴外共立商品株式会社に賃貸した事実が認められないではない。しかし当審証人東田隆次郎の供述と右建物の面積を原判決添付の第一、第二各物件目録に記載の本件土地の地積総計(九二四五・三〇平方米)と対比した結果を綜合すると、右建物の敷地が本件土地の全部に及んでいたことは到底認めることができないし、また右地上建物を第三者に賃貸したとしてもその敷地を含む本件土地の売却が法律上または事実上不能となる理由がないことも明らかである。

(ロ)  控訴人福岡大学の代表権について。

控訴人福岡大学の学長今村有が同大学を代表する権限を有していたかどうか、同学長が同大学を代表して行為していたかどうかの点はしばらく措き、被控訴人小林は右今村学長から、控訴人福岡大学が本件土地を買受ける為めの仲介を依頼されたこと、同控訴人の寄附行為によれば同控訴人を代表する権限は理事長のみに付与されていたことは当事者間に争いがなく、右今村学長が理事長ではなかつたという同控訴人の主張は被控訴人等が明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

しかし原審及び当審被控訴本人小林秀樹、原審及び当審証人東田隆次郎、同平田元祐、原審証人田中円三郎の各供述に弁論の全趣旨を併せると、控訴人福岡大学は私立学校法による学校法人であるところ、前記今村学長は昭和三九年当時同控訴人の職員で、同じく理事であつた同大学法人事務所長訴外田中円三郎と共に同控訴人を代表し、被控訴人小林に前記認定の如き本件土地買受の為めの仲介を依頼したものであるところその際被控訴人小林は寄附行為によつて加えられた前記代表権の制限を知らなかつたことが認められるから私立学校法第三七条第一項、第四九条、民法第五四条により、控訴人福岡大学は前記今村、同田中各理事に加えられた代表権の制限を被控訴人小林に対抗することができないと解するのが相当である。よつて、前記引用にかかる原判決理由第三項に説示の控訴人福岡大学の被控訴人小林に対するあつせんの依頼は有効と判断され、他に以上の認定を覆えすに足る証拠はない。

(ハ)  被控訴人小林と控訴人波田の関係。

被控訴人等は、被控訴人波多江が本件土地の現場で控訴人波田に被控訴人小林を紹介した際、控訴人波田は被控訴人小林にも本件土地の売却あつせんを依頼したと主張するが、この主張の趣旨にそう原審及び当審被控訴本人波多江、当審被控訴本人小林の供述部分は、原審被控訴本人小林の供述にてらして措信できず他に前記被控訴人等の主張を是認するに足る証拠はない。

(ニ)  被控訴人波多江と控訴人福岡大学の関係。

原審及び当審被控訴本人波多江の供述によれば、本件に関して被控訴人波多江は控訴人福岡大学側の関係者と交渉したことはなく、全立証によつても控訴人福岡大学が被控訴人波多江に本件土地買受のあつせんを依頼した事実を認めることはできない。

(ホ)  被控訴人等の仲介(受任事務処理)の状況。

原審証人藤野金次郎、原審及び当審被控訴本人両名、原審及び当審控訴本人波田、原審証人田中円三郎、原審及び当審証人平田元祐同東田隆次郎の各供述の各一部、前記控訴本人波田の当審供述にてらして成立を認めることができる乙第一三号証の一、二に弁論の全趣旨を併せるとこの点について以下の事実を認めることができる。即ち、昭和三九年一〇月頃から翌年夏頃までの間にかけて被控訴人等両名は控訴人波田の案内で本件土地を見分したのをはじめとして、被控訴人波多江は自ら控訴人波田に再三面談したほか自己の傭人訴外藤野金次郎をして同控訴人に面談させ、被控訴人小林は控訴人福岡大学の前記今村学長をはじめ前記田中法人事務所長その他同控訴人の法人事務所関係職員等に再三面談し、夫々自己の依頼者が提出する売買条件を交渉・伝達しながら売買価格の調整にあたつた。他方被控訴人等両名の仲介とは別に控訴人波田は、昭和三九年一二月末頃から控訴人福岡大学とその職員でかねて控訴人波田と知り合いであつた訴外東田隆次郎前記田中法人事務所長等を通じて直接の接渉も行つていたが仲々双方の指値が合致しなかつたことと共に、その後の地価上昇の一般的傾向(これは公知の事実である)もあり、遂に控訴人波田は昭和四〇年夏頃に至り前記引用にかかる原判決説示の如く坪一万五、〇〇〇円でも売らないと言い出したため、控訴人福岡大学もその交渉を打切り被控訴人等も本件売買は成立の見込なしと判断しその仲介も中断され、以後後記認定の如く控訴人等の間の直接交渉で売買契約が成立するまであつせんをすることがなかつた。

前掲各証人、各本人の供述中右の認定に反する部分は措信できず、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

(ヘ)  委任の解約について。

全立証によつても本件契約の合意解除までを認めることはできないが、右認定の事実に照らすと、控訴人福岡大学の被控訴人小林に対する本件土地買受に関する仲介の委任は、右認定の交渉行詰りによりすくなくとも黙示的に同控訴人から解約されたと認めるのが相当で、この点は控訴人波田、被控訴人波多江間の委任契約についても同様である。この判断を左右するに足る証拠はなく、かつこれは遡及的に委任契約自体を無効ならしめるものではなく、あくまで将来に向かつての解約であることは論をまたない。

三  直接交渉による売買契約の成立について。

(一)  日付を除き昭和四〇年一一月控訴人波田が本件土地のうち原判決別紙第一目録記載の土地を控訴人福岡大学に売却したことは当事者間に争いがなく、この事実に前掲乙第一三号証、原審証人田中円三郎、当審証人波田典正、原審及び当審証人東田隆次郎、同平田元祐、原審及び当審控訴本人波田、原審及び当審被控訴本人波多江の各供述の各一部に弁論の全趣旨を綜合すると、控訴人福岡大学は昭和四〇年夏頃、学校拡張の為め是非本件土地を買収したいと考え、控訴人波田に対し直接、かつ積極的に買収交渉をすすめ、遂に同年秋頃、当時控訴人波田主張の売価、坪当り平均一万八、〇〇〇円と控訴人福岡大学主張の買価坪当り平均一万七、〇〇〇円の中間をとり実測による坪当り平均約一万七、五〇〇円で売買することで話がまとまり、同年一一月六日前記第一目録記載の土地につき売買契約を締結し、次いで翌四一年一月頃までの間に原判決別紙第二目録記載の土地につき売買契約を締結したこと、所有権移転登記は前記第一目録記載の土地については直接これを為し、前記第二目録記載の土地については控訴人波田は自己の税法上の譲渡所得が高額となるのを防ぐ為め、一旦形式的に自己の子である訴外波田典正他五名に贈与を原因とする所得権移転登記を為し、更に右訴外人等から控訴人福岡大学に所有権移転登記をしたこと、その売買代金総額は合計金四、〇〇〇万円を下らないものであつたことの諸事実が認められる。前掲各本人、証人の供述中右認定に反する部分は措信し得ず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  被控訴人等は控訴人等が報酬金支払を免れる為め、故意に被控訴人等を除外して直接契約を行つたと主張するが(本判決事実摘示一の(六))、この主張を肯認するに足る証拠はなく右主張は、前記第二項(ホ)、(ヘ)、同第三項(一)に各認定の事実に照らしても採用することができない。

四  被控訴人等の報酬請求権について。

(一)  原判決請求原因六(仲介における事実たる慣習)について。

右主張の各事実たる慣習の存在につき一部被控訴人等の主張の趣旨にそう原審証人原田繁雄の供述部分は、同証人自身が宅地建物取引業者であり被控訴人等と共通の利害関係を有すると考えられるので直ちにこれを全面的に措信することはできず、他に控訴人主張の如き事実たる慣習の存在を是認するに足る証拠はない。

(二)  被控訴人等の条件成就みなし(本判決事実一の(七))の主張について。

被控訴人等の本件土地売買に関する仲介あつせんが中止された事情並びにその後当事者間の直接交渉により本件土地売買契約の成立をみるに至つた事情は、前記第二項(ホ)、(ヘ)、第三項に認定の通りであつて、全立証によつても控訴人等が故意に被控訴人等を排斥して直接交渉により契約を締結した事実を認めることはできず右被控訴人等の主張は採用できない。

(三)  期待権侵害の主張(本判決事実一の(八))について。

この主張も前記の如き本件仲介あつせんの中止及びその後における契約締結の経緯(就中本判決理由第二項(ヘ)に説示の解約の事実)にてらして採用できない。

(四)  しかしながら以上認定の被控訴人等のなした仲介あつせんとその後における当事者間の交渉による本件売買契約成立にいたる事実関係をみれば、(1)本件当事者間の売買契約締結に至る直接交渉が従前の被控訴人等仲介の結果を基礎として為されたことは充分推認でき、被控訴人等の仲介と本件売買契約成立との間に相当因果関係があることを肯認することができる。そうして(2)前記仲介あつせんの中止、委任の解約は、被控訴人等の責に帰すべき事由によらない交渉行詰りの為めと認められるから、被控訴人等は控訴人等に対し信義則上相当と認められる報酬を請求し得ると解するのが相当である。

尚、前記の如く控訴人波田と被控訴人小林、控訴人福岡大学と被控訴人波多江との間には直接の委任関係がないが、前記認定の事実関係によれば被控訴人等は不動産取引業者として夫々共同し分担を定めて仲介を行い、直接の委任関係にない他方控訴人もその利益を享受したものであるから、控訴人等が特にあらかじめ共同仲介を拒否していた等特段の事情がない限り、被控訴人等は夫々直接の委任関係がない他方依頼者たる控訴人に対してもその報酬を請求し得ると解するのが相当である。

(五)  報酬の額について。

この点について当裁判所も、被控訴人等が控訴人等に対し夫々請求し得る報酬額を夫々金五〇万円と認定する。その理由は左記の通り付加・証正するほか原判決四枚目裏一一行目から五枚目表八行目冒頭の「る」までに説示されているところと同一の判断をするのでこれをこゝに引用する。

(イ)  原判決五枚目表一行目「原告両名の各一部供述」とあるのを「原審及び当審被控訴本人波多江の供述と」、同四行目「原告両名」から「の各証言」までを「原審及び当審被控訴本人両名の供述、原審及び当審証人東田隆次郎、原審証人田中円三郎の各供述の各一部」と、同七行目「数回宛それぞれの依頼主を訪ねて」とあるのを「前記認定の通り」と夫々改める。

(ロ)  右東田、田中各証人の供述中右の認定に反する部分は措信できず他にこの判断を左右するに足る証拠はない。

(ハ)  右引用にかかる原判決説示の各事実関係と、先に認定した本件仲介の中止から直接交渉により本件売買契約が成立した経緯、右成立した本件売買契約の内容、宅地建物取引業法第一七条、昭和四〇年建設省告示第一一七四号、旧福岡県規則昭和三一年第一三号の定めるところにより、売買取引額を四〇〇〇万円としてこれにより不動産取引業者が依頼者から受け得る報酬を計算するとその最高限は売主、買主双方から夫々金一二六万円宛であると認められる事実を併せ検討すれば、本件において被控訴人等が本件仲介の報酬として控訴人等に請求し得る金額は、各控訴人に対し金五〇万円であると認めるのが相当である。

他にこの判断を左右するに足る証拠はない。

六  結論

してみると各控訴人は被控訴人等に対し右報酬金五〇万円及びこれに対する遅延損害金として本件売買成立の後である本訴状送達の翌日(控訴人波田に対し昭和四一年一一月一六日、控訴人福岡大学に対し同月一五日夫々本訴状が送達されたことは記録上明らかであるから、控訴人波田に対しては同月一七日、控訴人福岡大学に対しては同月一六日)以降支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による金員を支払うべき義務があり、その範囲内で本訴請求を認容した原判決は結局相当で本件控訴は理由がなく棄却を免れない。

よつて民事訴訟法第九五条、第八九条第九三条適用の上、主文の通り判決する。

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